サックス(サクソフォン)、フルート、クラリネットその他管楽器を演奏する時、加えてジャズ、ボサノバボーカルに取り組む時、リズムが安定して聞こえるためにはテンポ感が安定している必要があります。このテンポ感(テンポ)について、一般的にはメロディーの各音の発音のタイミングの周期を意味することが多いようですが、私、鈴木学はテンポについてはタイミングよりも各音が進行していくペース(進行感と言いかえても良いかもしれません)が大切であると考えています。このお話は皆様にとって少々難解だと思いますので、一つの例を挙げてご説明します。
ゴールは同時でもペースが違う!
例えば、二人の人物、AさんとBさんが街中をジョギングする、とします。二人は同時に出発して同じコースを走ります。ゴール地点にたどり着くまでには、何回か交差点を曲がらなければなりません。ゴールに到着する時間を○時○○分と目標に定めてから、その途中のいくつかの交差点の通過時間の目標についても到着時間から考えてそれぞれ○時○○分と予定しました。
さて、実際に走り始めた後Aさんは、次の交差点までまだかなりあるから、とのんびり走り始めました。それに対してBさんは交差点の通過時間を考え、これくらいのペースで走り続ければ目標の時間に通過できると予測した上で、一定のペースを保ちながらAさんよりもかなり速く走り続けました。一つ目の交差点が近づいてきて、のんびり走ってきたAさんは目標時間に間に合わない事に気付き、慌ててダッシュしました。その結果、AさんもBさんも目標の時間に交差点を通過する事ができました。
この例え話から冒頭のタイミングとペースについて考えてみましょう。AさんもBさんも目標時間に通過地点にたどり着いているので、二人ともタイミングは合っています。しかし、Bさんは一定の安定したペースで走っていたのに対して、Aさんは前半はゆっくりとしたペース、後半は慌しいペースと、ペースが安定していません。
ペースに乗れると演奏が変わる!
音楽の演奏の場合でも、この話と同様タイミングが合っていてもペースが違うという事があります。生徒さんの演奏を聴いている時、メトロノームを基準にするとタイミングは合っているにも拘らず、慌てている感じの印象に聞こえたり、のんびりして遅れているように聞こえたりする事があります。つまりタイミングが合っていてもペースが不自然だと、やはり演奏の印象も不自然なものになってしまうという事です。ペース、言い換えればスピード感がテンポに対して一致していることが音楽の演奏には求められます。しかも、ペースが安定すれば拍のタイミングが少々メトロノームとずれていても、そのずれがほとんど気にならなくなります。つまり、テンポ感が安定して聞こえるためには、拍のタイミングよりも進行のペースが安定していることの方が大切なのです。
実はこれは前回のブログ、「リズムが安定するメリット!」の内容とも関わってきます。演奏中の「リズムの安定」を各音のタイミングから実現しようとすると、大変に複雑な作業をする事となってしまいますが、「リズムの安定」=「ペースの安定」である、とすると各音の発音のタイミングに囚われずに安定した演奏ができます。しかも、特にジャズの場合は、各奏者のペースさえ一致していれば、少々のタイミングのズレがあってもアンサンブルは成立します。というより、むしろその方が格好良い演奏になるのです。
どんな練習をすればよいの?
さて、この「ペースの安定」について、実際にどのような練習をすれば身に付くものなのか? 皆さんはそこが気になるところではないでしょうか? 残念ながら、これについてブログの文面だけで完全にご説明する事は困難です。演奏上の様々な要素が関わってくるので、文章のみでお伝えしようとすると誤解を招きやすいのです。「ペースの安定」についてしっかりとマスターしたいという方には、鈴木サキソフォンスクールの、サックス一般コース、サックス・アドバンス・コースの受講をお勧めします。
とは言ってみましたが、実は「ペースの安定」を身に付けるために、どなたにでも簡単に取り組む事ができる事が一つだけあります。それはメトロノームを有効に練習に活用する、という事なのですが、これについては次回のブログでしっかりとご説明します。