今回から、ジャズの歴史を語る上で最も重要な存在と言えるテナーサックス・プレイヤー、「 レスター・ヤング」をご紹介していきます。レスターの演奏は後に続く現代までの、全ての(と言っても過言ではないと思います)サックス奏者に直接、間接の多大な影響を与え続けてきました。もちろん私、鈴木学自身も影響を受けています。いや、影響を受けたというより終生のお手本として尊敬し続けている、と言うべきでしょう。実は、ブログ「サックス・ジャズ演奏法」で取り上げている演奏に対する考え方や練習法についても、レスター・ヤング奏法に近づく為のものです。
レスター・ヤング入門
とは言うものの、レスターの演奏のどういった要素がそんなに数多くの後進に影響を与えたというのか?ジャズの歴史や有名プレイヤーを紹介している記事を見ても、いま一つピンとこない事が多いのではと思います。それは当然のことで、音楽についての事を文章だけで理解しようとしてもそれは単なる知識にしかなりませんし、レスターという一人の奏者のプレイスタイルの特異性を理解するには、レスター以前、若しくは同時代の奏者の演奏と聴き比べをしなければ本当に判ったことにはなりえません。
そこで、このブログでは様々な音源をご紹介しながら解説を進めていきます。レスターの演奏の本質を知る事は、モダンジャズを知る事の入り口になります。きっと、皆さんがジャズを聴くとき、そして、ジャズ、サックス(サクソフォン)を演奏する時、それをより深く楽しむ為の大きなヒントとなるはずです。それでは、まずは当時のジャズの状況を確認しながら、レスターの演奏の秘密に迫っていきましょう。
スイング・ジャズの異端児、レスター・ヤング
レスターはジャズの歴史本等を読むと「 モダンジャズの開祖」というように紹介をされていることが多いのですが、彼自身がキャリアをスタートさせた頃、共に演奏していたバンドは「 デキシーランドジャズ」から発展した「 スィング・ジャズ」、若しくは「中間派」と呼ばれるスタイルで演奏していました。
レスター自身も本質的にはこのスィング・ジャズのプレイヤーといえます。特に自分がモダンジャズを演奏しているとは思っていなかったようですし、実際のソロの音使いを調べてみると、確かに当時のジャズマンの音使いとそうは変わりません。否むしろ、ジャズのソロスタイルの開祖、 ルイ・アームストロングの音使い(参考音源として下段、「 Louis Armstrong - Struttin' With Some Barbecue 」 )に近いくらいトラディショナルなものです。にも拘らず、彼は同時代のサックス奏者たちと比べると極めて風変わりに聞こえる演奏をしていました。
ジャズアドリブを学習している皆さんは、ソロの中でどのような音使いをするか?ということに偏った考え方で練習しがちです。しかし、これからご紹介していくレスターのプレイの特徴を知ると、音使い以外にも大切な要素があるということがハッキリとご理解いただけると思います。レスターは音使いは普通だったのに、大変個性的でしかもモダンに聞こえるプレイをしていたのですから・・。
「剛」のホーキンス、「柔」のレスター
どんなように風変わりだったのか?早速音源の聞き比べをしなければなりません(笑)まずは、その当時ほとんどのテナーサックス奏者がお手本としていた、「スィング・ジャズ」スタイルの代表格、コールマン・ホーキンスの演奏を聞いてみましょう。
次にレスター・ヤングの演奏を聞いてみましょう。
いかがでしたか?この二つの演奏を聞き比べてみると、まずホーキンスはいかにも力強く豪快なプレイであるのに対して、 レスターのプレイは柔らかくしなやかな感じに聞こえませんか?「剛」と「柔」と言う言葉が二人の演奏の特徴を直感的に表しています。
当時のテナーサックス奏者はほとんど全てが、ホーキンス流の「剛」のスタイルで演奏していた中、ただ一人レスターだけが彼らとは全く異なる「柔」のスタイルで演奏してしていたのですが、いったいどのような理由、経緯でレスターはこのようなプレイスタイルを創り上げたのでしょうか?
- 何故、レスターはそのようなスタイルになったのか?
- 何故、レスターのプレイは「柔」に聞こえるのか?
- 何故、「柔」のプレイがモダンジャズにつながっていったのか?
これらの疑問について、これから数回のブログ、ジャズサックス名鑑の中で解き明かしていきます。今回は壮大なテーマをぶち上げてしまったので、更新間隔が長く空いてしまうかもしれませんが、これから続くブログ「レスター・ヤング編」を、皆さん是非お楽しみにお待ちください!