ジャズテナーサックスを志すものならば、テナーの巨人、 ソニー・ロリンズの演奏を耳にした事はあるでしょう。もちろん、私、鈴木学自身、若い頃に散々聞きました。今もロリンズのレコード、CDを15枚程度所有しています。今回は、完全な私見として、ロリンズの演奏について分析してみたいと思います。
度々雲隠れしたロリンズ
豪快な音色、多彩なフレージング、ワン&オンリーな歌心など、ロリンズのプレイの美点は数ありますが、演奏を仔細に分析した結果、私は自分の演奏のお手本としては取り入れない事にしています。ロリンズの演奏スタイルは、リズム的に大変不自由に聞こえるからです。
ここで、ロリンズの演奏動画をご紹介します。 『 セント・トーマス』です。
実際にロリンズは、1950年代初頭から現在に至る長いキャリアの中で、数回雲隠れしています。自身の演奏に満足できなくなり、新しいスタイルを探すためにキャリアを中断していた時期が何度かあるのです。
これは勝手な想像に過ぎないのですが、現在も自分のプレイ・スタイルに満足していないのではないでしょうか? ロリンズほどの巨人が何故、このような事になるのか?それはおそらく、キャリア初期にお手本としていたスタイルに原因があるのではと考えられます。
ホーキンスとレスターの違い
ジャズテナーの歴史を紐解くと、最初期に皆がお手本としていたのが、コールマン・ホーキンスのスタイル、その後、 レスター・ヤングが登場すると、皆がこぞってレスターのスタイルをお手本とするようになりました。とは言え、ホーキンスの影響が全くなくなってしまったわけではなく、どの奏者も、両者の影響を受けつつ、どちらかと言えばホーキンス寄り、レスター寄りという具合に、自己のスタイルを形作っていました。
ここで、ホーキンス、レスターの両者が共演し、バトルを繰り広げている映像をご紹介します
お聴きいただければハッキリと分るように、両者のスタイルはあまりにも異なります。一言で言えば、剛のホーキンス、柔のレスターという感じです。
そして、様々な違いの中でも特に両者を分けるのは、リズムの表現方法でしょう。 ホーキンスの場合、フレージングの中で、ジャズの基本リズムである3連譜を律儀に表現します。ベース、ドラムと同じようなリズム感をサックスでも表現しているのです。それに対して、レスターはこの3連譜に囚われません。むしろ、ベース、ドラムとは別のリズム感をサックスで表現しています。
確かに、ホーキンスのようにリズムを刻むと、豪快な雰囲気は出ますが、その代わりにどうしてもリズムの自由がなくなります。3連譜にきっちりハマッたフレージングしかできなくなりがちなのです。それに対し、レスターは3連譜と関係なく表現しますから、リズムの自由度が上がり、フレージングも圧倒的に自由になります。
アドリブで重要なのは、リズムの柔軟性
実は、ロリンズはホーキンスの影響が強い奏者です。当然のように、上記のようなリズムコンセプトに関しても影響を受けています。ロリンズは天才的な歌心を持っっているのにも関わらず、自由度の低いリズムコンセプトで演奏している・・。この矛盾のためにどうしても、演奏の行き詰まりを感じてしまう、というのが何度も雲隠れを繰り返した事の原因なのでは?私はこのように考えます。
アドリブに挑戦するというと、皆さんは音選びをどうするのか、という点に意識が向きがちです。しかし、音選びの知識がいくら増えても、それを旋律として表現する際には、リズム的柔軟性が欠かせません。それがないと、選んだ音が旋律として表現できないことが多々あるのです。これでは自由にアドリブできなくなってしまいます。 だからこそ、私はレスターヤングの柔軟なプレイをお手本としています。皆さんも、是非記憶しておいてください。自由なアドリブのためには、柔軟なリズムコンセプトが必要であることを!