ここまでのブログ、「タイミングとペースの違いについて」、「メトロノームの使い方」の中で、テンポ感とは何か?そして他の音とタイミングを合わせることよりも、テンポ感(ペース)をキープする方が重要である事、更にその為のメトロノームの使い方についてお伝えしてきました。今回はそれらを踏まえた上で、もう少しだけ詳しくテンポの安定の為の練習法、注意点についてご説明します。サックス(サクソフォン)、フルート、クラリネットのような管楽器を練習する時にはもちろんですが、その他の楽器、そしてジャズボーカル、ボサノバボーカルの練習に取り組んでいる方にも、きっと参考にしていただけるかと思います。
テンポを変化させるトレーニング
例えば、ブレスの安定の為として一つの練習課題に取り組む時には、同じ音量のまま練習を続けるのでなくクレッシェンド(徐々に音量を上げていく)、デクレッシェンド(徐々に音量を下げていく)する練習を取り入れる事が有効です。
これと同様、テンポ感の安定を求める為には、あえてリタルダンド rit.(減速、徐々にテンポを落としていく)、アッチェレランド accel.(加速、徐々にテンポを速めていく)を繰り返す練習をするのが大変有効です。つまり、テンポ感を安定させる為には如何様にでもテンポをコントロールできる状態になっておく事が重要であるということですね。
この練習の時に特に注意していないと、rit.時に音量が下がり、accel.時には音量が上がってしまいます。 こうなると練習の効果が半減してしまいますので、何時も同じ音量をキープしながら練習する事を心がけましょう。
最遅テンポから最速テンポまで
それから、何か一つの曲を吹く練習をする時、特にカラオケを相手に演奏するとか、アンサンブルの譜面をメトロノームと共に練習するというと、皆さんはいつも同じテンポで練習しようとする傾向があるようです。しかし、これは安定したテンポ感を得ようとする時にはむしろ逆効果となります。
何時も同じテンポでばかり練習していると必ずといっていいほど悪い癖がつきます。 よくある例が、演奏しやすい部分は拍が短くなり、難しい部分は長くなってしまうという癖です。(逆にそれを意識しすぎて反対になってしまったり・・・)
こういった悪い癖がつくのを防ぐ為には、その曲、譜面で演奏可能と思われる最速のテンポから、最も遅いテンポまでまんべんなく練習しておくことが大切です。常に違うテンポでメトロノームを設定して、それぞれのテンポで格好良く演奏できるように、 と考えて練習していくと、このような悪い癖がつくことはまずありません。加えてこの練習中に、前回のブログでお伝えしたようなメトロノームの使い方をしていただければ、スピード感を身につけるためにも大変有効です。
テンポは生き物
私、鈴木学はこれまでに通算3,000回以上のステージを経験してきましたが、バンドで何か曲を演奏する際に、始めの一小節目からテンポが完全に落ち着いたことはほとんどありません。ほとんどというか、いつも2,3小節目でテンポが落ち着くことになるので、それを想定して吹き始めます。吹き始めてから、テンポを加速させたり、減速させることになるのが当たり前だという事ですね。
それから曲のテンポそのものに関しても、今まで何回も何回も繰り返し演奏して来た曲は多々あるのですが、一度として完全に同じテンポになった事は無いと断言できます。ジャズのスモールコンボの場合だと、同じ曲をわざとテンポを変えて演奏する事が多いのですが、それにしても同じ曲が同じテンポになった記憶はありません。どうしても毎回変わってしまいます。少なくとも、演奏前に私自身が想定したテンポになることはまず無いのです。このような、バンド演奏の実態から考えても、一定のテンポ、決まったテンポでばかり練習を続けるのは、いかにも無意味であると思いませんか?
【今回のまとめ】テンポ感に関する練習をする時には以下の2つの練習法を取り入れましょう。
- いつも一定のテンポを保って練習するのでなく加速、減速の練習を取り入れる。
- いつも同じテンポ設定で練習を続けるのでなく、極端に速いテンポ、遅いテンポでも練習する。