今回から、ブログ「サックス・ジャズ演奏法」ではアンサンブル、特にジャズのアンサンブルについて数回にわたってご説明していきます。ジャズバンド、ジャズビッグバンドにサックス(サクソフォン)等の、管楽器奏者として所属して練習に励んでいる方、他にも、鈴木サキソフォンスクールの「スチューデントライブ(発表会)」のように、音楽教室の発表会等で時折バンドと音を合わせる機会のある方、自分一人で演奏すればまあまあの出来栄えになるのに、バンドで合奏してみるとその成果がサッパリ出ないという事はありませんか?ほとんどの場合、アンサンブル、合奏に対する考え方を切り変えるだけで大きな成果につながりますよ。
ジャズと(中高部活の)吹奏楽は違う
まずは吹奏楽と比較して、ジャズのアンサンブルならではの特長について考えてみましょう。特にサックス、トランペット、トロンボーンのような管楽器の場合、中高生の時に吹奏楽を経験している方が多いのではと思われます。更に、日本のジャズアンサンブルの現場では、吹奏楽との区別がはっきりしない状態で指導、練習が行われている、という現実がありますので、まずは吹奏楽とジャズの違いをハッキリと理解する事が、ジャズ・アンサンブル能力の向上につながるはずです。
吹奏楽とジャズの違いについて、それぞれのジャンルで演奏に求められるものを一言で言うと、吹奏楽の場合は「集団の調和」、ジャズの場合は「個の表現」となります。
吹奏楽もジャズ(この場合はジャズビッグバンド)も、アンサンブルの時には各楽器パートに割り振られたパート譜を見て演奏します。この時、吹奏楽の場合は一つのパートを複数で吹く事になる、つまり、演奏中全く同じ音を出す奏者が複数存在するのですが、ジャズの場合必ず一枚のパート譜を一人の奏者が演奏します。自分と全く同じ音、メロディーを演奏する奏者は自分以外には存在しない、ここが大きなポイントとなります。
吹奏楽の編成は最大100名もの大編成で演奏される事もありますが、ジャズビッグバンドの場合、最大でも17,8名程度の演奏となります。これは、ジャズが1パートを1名で演奏する事から、編曲上これ以上パート数を増やせないという事情によります。
ジャズ演奏に求められる事
1名に付き1パートの譜面ということは、全員が違う音を演奏しますから、アンサンブル演奏の時でも各奏者がソロを吹いているのと近い状況になります。今自分が演奏している音は、自分一人だけが奏でている音なのです。ということは各奏者は自分の演奏している音がハッキリ、クッキリと聞こえるように演奏しなければなりません。なぜなら、編曲者は各音が全て聞こえてきた上でハーモニーになるように音楽を造っているからです。わざわざ聞かせないための音を書く編曲者はいません。
加えて、皆が違う音を「ソロのように」演奏しているのですから、各々が自分のパート譜をどのように表現をするのかが、極めて大切になります。他の奏者が演奏しているメロディーと自分が演奏しているメロディーは違うものですから、表現を合わせよう、揃えようとするのは無理があります。自分のパート譜は自分自身の意思で表現するものであり、その結果、各奏者の表現が異なってくるのは当然の事ですし、むしろそれが良いのです。それがジャズなのですから・・・。
それに対して同じパート譜を複数名で演奏する場合は、その複数名の演奏がピッタリと揃って「溶け合って」一つに聞こえる状態を求めるべきです。しかも吹奏楽のように何十名もの大合奏ならば、各々奏者の音が主張してしまうと、あまりに混沌とした演奏になってしまいます。当然それは好ましくない事ですから、各奏者は「調和」を求めて演奏しなければなりません。もちろん、編曲者もそれを想定して編曲します。 ということはつまり、吹奏楽の場合は自分の音が目立たないように演奏することが求められる。それに対してジャズの場合は、自分の音を周りに聞かせるように演奏することが求められるというわけです。
自分の音をしっかり聞きましょう
「自分の音を目立たせないように」演奏する吹奏楽では、アンサンブルをする時に大切なこととして、「周りの音をしっかり聞いて合わせるように」とよく言われます。人と違う表現になってしまっては音が溶け合わないので、これはある意味当然の考え方でしょう。
しかし、ジャズ、そしてサックス等管楽器のアンサンブルの場合、むしろ「周りの音より自分の音に集中すること」が大切です。ジャズの場合、周りは皆自分とは違う音を演奏していることになるので、周りの音を聞くことで自分の音がわかる、ということはありません。周りの音を聞いて確認する前に、自分の音がいまどうなっているのか把握するほうがずっと重要です。
そもそも周りの音を聞いてから自分の音を修正するのでは完全に手遅れになってしまいます。まずは自分の音をしっかり聞いて音楽の流れに入っていること、そうすれば周りの音が次にどうなっていくのか予想がつきますから、演奏途中にテンポ感の修正をしたりする事も簡単です。更に言えば、自分の音をしっかり聞いていることで、自然と周りの音も聞こえてくるようになります。
反対に周りの音に耳を集中させても、自分の音が聞こえてくる事はありません。 ジャズ・アンサンブルの演奏時は「ソロで吹いているのと同じ」で、しかも「自分の演奏をしっかりと人に聞かせるつもりで吹いている」のですから、まずは自分の音をしっかり聞くのが第一で、周りの音と自分の音の関係を気にするのはその次、というように考えてください。そして周りに合わせるのではなく、各奏者が自分なりの表現をする、それがジャズのアンサンブルなのです!
【今回のまとめ】ジャズのアンサンブルでは、・・・
- 周りの音ではなく自分の音をしっかり聞きましょう。
- 表現についても周りの音にただ合わせようとするのではなく、自発的に表現していきましょう。