チューナーの音程は正しいのか?

皆さんが、サックス(サクソフォン)、フルートクラリネット等管楽器の練習に取り組む時、特に音程(ピッチ)について留意した練習をする場合、大抵はチューナー(正しくは『 チューニング・メーター』)を用いて練習を、ということになるでしょう。実際、チューナーを目の前に置いて、まるで『にらめっこ』をしているかのようにチューナーの針、ストロボの動きを凝視しながら練習している姿を時折お見受けします。しかし、ここで皆さんに伺いたいことがあります。

  • そのようにチューナーを使用していて、実際に音程が良くなったという実感があるか?
  • チューナー通りの音程を本当に美しい音程だと感じた事があるか?

いかがでしょうか?そもそもこのような問題意識を持ってチューナーを使っている方は少ないでしょうから、きっとお答えに窮するのでは、とも思いますが、いったいチューナーとはどういうものなのか?時にはそんな事を考えてみるのも良いのではないでしょうか?

平均律と純正律

音程(ピッチ)を合わせる

チューナーが示す音程は本当に正しいのか?と言うときっと皆さんは「えっ、何言ってるの?機械なのだから正確に決まってるじゃない」と思うことでしょう。その通り、チューナーという機械そのものは正確に音程を測ってくれます。問題は、その機械の中にプログラムされている音程、 音律なのです。

 

チューナーの音程はごく僅かな例外を除いて 『平均律』でプログラムされています。この平均律というのは、簡単に言うと1オクターヴを12等分した音律のことで、現代のピアノの調律にも用いられている音律なのですが、問題はこの平均律による音律が正しい音程と言えるのか?という点にあります。

 

実は平均律に対して 『純正律』と言う言葉があります。この純正律は文字通り正しい音律と言う意味なのですが、それならば平均律とは、いったいどういう意味なのか?純正ではないとはどういう事なのか?ここでご説明するにはあまりに専門的な話になってしまいますので、ごくごく簡単にまとめますと、平均律とは「美しい音程ではなくなってしまうが、演奏上の利便性の為に、1オクターヴを12等分して近似値とした音律」ということになります。

 

(ここで言う『演奏上の利便性』とはどういうことかというと、転調の問題です。純正律は基本的に一つの調の中での音律です。例えば、キーをC(ハ長調)としてピアノを純正律で調律した場合、他のキーを演奏すると、汚い音律、若しくは全く使えない音律になってしまいます。それでは困るので自由に他のキーにも転調できるようにと考え出されたのが平均律なのです。)

二つのチューナーで実験してみる

平均律と純正律、どのくらい音程が異なるものなのか?ここで1つの実験をしてみましょう。まず、音が出せるチューナーを2台用意してください。出来たらその2台が同じメーカーの同じ製品であると更に好ましいのですが、もしそろえるのが難しければ別の製品でも構いません。それぞれのチューナーの基準音の音程が一致している事を確認した後、片方のチューナーでC(ド)の音、片方でE(ミ)の音を同時に鳴らしてみてください。

 

いかがでしょうか?かなりはっきりとわかるぐらいに濁った音になりませんか?そう、これが平均律による音程のハーモニーなのです。もしもこれが2本のサックスによるハーモニーだったら、誰が聴いてもわかるくらい調子はずれなものに聞こえてしまいます。

 

次に同じく2台のチューナーで同様にCとEの音を鳴らした後、Eの音を出しているチューナーの基準音を1Hzずつ下げていってください。いかがでしょうか?途中で濁りのない美しいハーモニーになりませんか?この美しいハーモニーが純正律によるものです。つまり、もともとチューナーが示している音程から大きくずらさないと美しい純正な音程にはならないということがわかります。

 

サックス(サクソフォン)その他管楽器によるハーモニーはこの純正な音程でないと美しく響きません。そしてその為の音程はチューナーからはわからない、これがチューナーの音程の真実なのです。

 

(ピアノの場合、平均律で調律されていますが管楽器の場合ほどはハーモニーの響きの濁りが気になりません。これは管楽器が主に表現するのが持続音であるに対して、ピアノは減衰音であることによります。もちろんそれでもハーモニーに若干の濁りは出ますが、それがむしろ良い味になるように聞かせるのもピアノ演奏の醍醐味の一つとも言えるでしょう。)