ジャズアドリブの真実②

前回のブログ『ジャズアドリブの真実、①』で、ジャズ・アドリブの習得の過程として、以下の4段階をご紹介しました。

  • ①最近練習したとおりのフレーズで演奏
  • ②以前に憶えたフレーズで演奏
  • ③演奏した事は無いけど、聞いた事のあるフレーズで演奏
  • ④演奏した事も聞いたことも無いフレーズで演奏

これを、新たな言語を習得する過程として置き換えると、

  • ①一段落を丸暗記して、そのまま会話で話す
  • ②一文単位の例文を数多く学習しておき、それを思い出しながら組み合わせて話す
  • ③以前に人から聞いた話の内容を思い出しながら伝える(受け売り)
  • ④会話の最中に、自分自身の言葉として考えた内容を伝える

このように置き換えて両者を比較することで、ジャズアドリブの真実についての理解が深まると、ご説明しました。今回もこの両者を比較しながら、お話を進めていきます。本当にジャズアドリブは会話と似ているのです。

 

今回のお話の中では、 『フレーズ』=『数小節分のまとまったメロディー』、 『ショート・モチーフ』=『2音~6音の音数の音列パターン』と定義します。

ショート・モチーフ=単語

ジャズアドリブ=会話

日常会話、特に母国語を用いての会話の中で、人間は、どんな内容を伝えたいかと、ぼんやりとイメージをしながら話をします。頭の中で文章を最後まで構成した後に、あらためて言葉にするなんて事はありませんね?普通、話している最中に同時進行で、無意識に文章を構成していっているはずです。もちろん、以前に学習したり、聞いた事のある言い回しが脳内の記憶に蓄積されているからこそ、無意識に文章になって出てくるのですが、少なくとも、会話中に意図的に文章を丸ごと思い出したり、構成しているわけではありません。

 

それから、会話の文章は、短い単語の組み合わせで構成されます。当然、単語は無意識の記憶の中に蓄積されているのですが、会話の相手に伝えたい内容のイメージにより、記憶の中から引き出されて、文章を構成していきます。

 

ここでのポイントは、文章の内容自体は、今まで誰にも話した事が無いような話である場合でも、単語については、既に日常的に用いているものを組み合わせていることが大半である、という事実です。単語自体をその場で発明している事はまずありません。

 

実は、ジャズアドリブの4段階の④で演奏する、つまり、今まで聞いた事の無いフレーズを即興的に生み出す為には、会話で言う所の『単語』、つまり即興演奏する際の『ショート・モチーフ』、これが土台となります。どんなに長いフレーズでも、細分化していけば、2音~6音の音数の音列パターン、『ショート・モチーフ』の組み合わせで構成されています。

ショート・モチーフがアドリブ演奏に!

会話の場合、日常会話が成立するには、話す者同士がある程度以上の語彙を持っている必要があります。アドリブの場合でも、ある程度は『ショート・モチーフ』のバリエイションのストックが必要となります。しかし、だからといって、莫大なストックを持っていないとアドリブ演奏ができない(会話が成立しない)という訳ではありません

 

小さな子供の場合なら、まだまだ語彙は少ないでしょうが、きちんと意味のある会話はできます。むしろ、子供の方があっと驚く鋭い発言をすることがあるくらいです。反対に膨大な語彙を持っているはずの大人が、つまらない話しかできないこともあります。一概に語彙の多い少ないの差が話のレベルを決めるわけではありません。語彙が少なくても意味深い話はできます。つまり、『ショート・モチーフ』のストック量が少なくても、アドリブ演奏は十分可能なのです。

 

モダンジャズの巨人、 チャーリー・パーカー や ジョン・コルトレーンの演奏だって、フレーズを細分化すれば、シンプルな『ショート・モチーフ』で構成されています。ただ、面白いのは、この両者の用いるモチーフは、随分と異なります。単語が異なる、つまり言語自体が異なるということで、言ってみれば、それぞれ『パーカー語』、『コルトレーン語』で演奏していると言うことですね。もちろん言語自体が異なるのですから、どちらの言葉で話しているほうが偉い、なんて事は決められませんね?(笑)

 

この2人はもちろん巨匠ですから、結果として複雑かつ難解な話、演奏をしているわけですが、だからと言って、ジャズアドリブに取り組む学習者が全て、彼らのような複雑な演奏をするべき、という事ではありません。その人のその時点での、身の丈に合った話、演奏をすればよいのです。そして、何より冒頭の、ジャズ・アドリブの習得の過程の④であること、つまり、まぎれも無い即興演奏である事、これを目指しましょう!