今も昔も、ジャズ演奏をマスターする為の練習法として欠かせない『耳コピー』。しかし、残念ながらその意義を正しく理解し、有効な練習法を理解している人はかなり少ないように思えます。今回は、何故『耳コピー』なのか?どのように『耳コピー』すればよいのか?ジャズテナーサックスの耳コピーの題材として、最適な音源をご紹介しつつ、解説したいと思います。
何故『耳コピー』なのか?
ジャズに限らず、サックス(サクソフォン)などの楽器演奏をマスターする為には、正確に楽音を聞き取り理解する「耳のトレーニング」が欠かせません。クラシックを例に挙げれば、大半の音楽大学の過程の一科目として『聴音』(耳で聞いた旋律や和音を、楽譜に書き記すトレーニング)という科目が組み込まれます。コレのジャズ版が『耳コピー』なのです。
加えて、ジャズ演奏の場合、クラシックその他の西洋音楽と違い、楽譜には書き記せない音楽的ニュアンス、歌い回しを表現することが必須となります。しかし残念ながら、これは言葉等で伝える事はできません。始めはとにかく、本物のジャズ演奏を聞いて「マネ」するしか方法はないのです。 だからこそ、『耳コピー』の際には、演奏者の表現、ニュアンスをしっかり聴き取り、自らの楽器で再現しようと努める事が重要となります。
現在ジャズアドリブに取り組んでいる方の中には、アドリブする際に用いる「フレーズ」をストックする事を目的としている方も多いことでしょう。しかし、それは『耳コピー』の効果の一面に過ぎません。ジャズ演奏のニュアンス、歌い回しを身につけることこそが「耳コピー」の主な目的なのです。
以下に、効果的な『耳コピー』の方法をご紹介していきますが、ココまでの記述をご理解いただいた上で、取り入れていただくと、更に効果が高まる事でしょう。
有効な耳コピー方法
(絶対に譜面に書かない事、必ずコピー先の奏者と同じ楽器で音を拾う事が重要です)
- ①コピー対象のソロ音源を、徹底的に繰り返し聞く
- ②ソロを憶えて、スキャットで歌う練習をする
- ③初めの1フレーズ(ごく短い単位で構いません)を、サックスで音を拾い、吹けるようにする
- ④2フレーズ目を拾い、1フレーズ目から続けて吹けるようにする
- ・・以下、この作業を繰り返す
この方法で『耳コピー』をすれば、コピーした音列が確実に自分のものになります。例えば、私、鈴木学の場合、今から20年以上前にコピーしたソロを未だにかなりの数、譜面無しで演奏できます。まさしく自らの財産となっているのです。
ソニー・スティットのソロをコピーしよう!
ここで、『耳コピー』の対象として最適な音源をご紹介します。アルトサックス、テナーサックスを全く同等に吹きこなす、ジャズサックスの名人、ソニー・スティットのキャリア初期の名演です。この時期は、集中的にテナーサックス演奏に取り組んでいたので、全てテナーの演奏になります。
このセッション自体、ビバップテナーのバイブルと称される名演なのですが特に一曲目の『Strike Up the Band』は、耳コピーの対象として最高レベルの名演です。 フレージングは明晰、かつ流麗、まさに「ビバップのフレージングはかくあるべし」というお手本のような演奏です。是非、コピーしてみてください。