ジャズテナーの歴史上、10大テナーを選べと言われたら、今回ご紹介する スタン・ゲッツを外すわけにはいきません。スタンは、ソフトな音色でプレイする「クールテナー」と称される事が多いのですが、私、鈴木学、個人的には『ウォーム・テナー』と呼んだ方が適切だと思っています。
彼は所謂、天才肌のプレイヤーだったようです。実際に、様々な音源を聴き直してみると、プレイの出来不出来の差が非常に大きいように思えます。そこで、今回はそんなスタンの録音の中から、選りすぐりの名演をご紹介します。他の奏者の演奏ではなかなか聴く事ができない、唯一無二のメロディー作りの『天才』スタン・ゲッツならではの演奏ばかりです。
ゲッツの生涯を、名演で辿る
①天才スタンが、真の本領を発揮していた、初期の録音から2曲。共にぞっとするような美しさのフレーズが次々と紡ぎ出されている名演です。
②天才ゲッツ、最後の輝き、50年代中頃の演奏です。
③ジャズボッサに活路を見出し、商業的に大成功していた頃の映像です。
④キャリア後期、若手メンバーを積極的に起用し、コンテンポラリーな楽曲にも積極的に挑戦していた時期の映像です。
如何でしょうか?このように聴き進めてみると、やはり、スタンは独特の美意識を持った、ジャズ史上に残るスタイリストである事がはっきりと感じられると思います。
ハードなブレスによる、ソフトサウンド
パッと聞いた感じ、ゲッツのサウンドは確かにソフトな響きに感じられます。だからこそ「クールテナー」と呼ばれていたのでしょう。しかし、よくよく音色を聴いていると、そうは話が単純ではないことに気づきます。
確かに、コールマン・ホーキンスやソニー・ロリンズのような、ハードにブローするジャズテナー奏者の音色と比べると、派手でよく目立つ音ではありません。柔らかく、ウォームな雰囲気の音です。
しかし、これは音の「質」の差です。皆さんが良く勘違いしやすいのはココなのですが、音質がソフトだからといっても、決して「音量」が小さいわけではありません。実際にはボリューム感のある、豊かな響きがある音、そして、極限までかすれたサブトーン、ハスキーな音なのです。
下の映像をご覧いただくと、実際にゲッツはかなりしっかりと、ブレス、息を取り込んでいる様子が確認できます。ソフトなサウンドを奏でる為に、大量の息を消費しているのです。口先だけでささやくように演奏しているのではありません。
亡くなってから既にかなりの年月が経過していますが、今でもゲッツのような音色に憧れつつ、ジャズテナーに取り組んでいる方は、大勢おみえでしょう。そんな方は是非記憶しておいてください。 ソフトな音色を奏でる為には、ハードなブレスが必要なのです!