今日は、ジャズ界に多大な功績を残して亡くなったジャズアルトサックスの名手、チャーリー・マリアーノの映像をご紹介します。チャーリー・パーカー流のビバップからスタートし、フリージャズを経た後、晩年にはマリアーノ・ミュージックとでも言うべき、独自の世界観を表現していました。
マリアーノの魅力
この方の演奏の魅力を一言で表現するとするならば、「大トロ」という事になるかと思います。しっかりと脂がノリつつもくどすぎず、その脂はサラリとした舌触りとなり、食する者を魅了する上質な「大トロ」、これがマリアーノのプレイだと思うのです。
マリアーノの音色からは、強烈なパッションが伝わってきます。しかしそれは決して押しつけがましいものではありません。時に、アバンギャルドなトーンも発しますが、決して下品にはなりません。どんなに激烈に歌い上げても決してくどすぎない、絶妙なバランスのプレイを聞かせてくれます。
そして何より、他からの借り物ではない、マリアーノ自身の「歌声」となって、サックスの音が伝わってきます。恐らく嘘偽り、何の虚飾もない、本音の音を奏でているのだと思います。その上で、くどすぎない大胆な表現を実現していたのは、長年のキャリアの中で身にまとった「音楽家としての品格」によるものでしょう。
ギリギリを狙うべし!
私、鈴木学は常々、楽器の演奏時は「ギリギリを狙うべし!」と生徒さんにお伝えしています。もちろん自分自身の演奏活動の際にも、ギリギリを狙って攻め込んだプレイをするように心がけています。そうすることで、演奏者自身、良い意味でテンションを上げることにつながり、その結果、奏者の無意識の世界に存在する「音楽脳」が目覚めます。この音楽脳を使う事、育てる事が非常に大切なのです。
この「音楽脳」は、誰の脳内にも存在します。そして初めて楽器に取り組むビギナー、例えばサックス初心者さんにとっては、この音楽脳を目覚めさせる事ができるかどうかが、最初の難関となります。楽器の音色を隅々まで聞き取る、声で歌ってみる・・。これを繰り返すうちに、音楽脳にスイッチが入る、そして「楽器が歌いだす」のです。そして、音楽脳は経験を重ねるほど、徐々に品格が身についてきます。
マリアーノのような個性的な演奏をするプレイヤーほど、演奏中にこの音楽脳をフル回転させるているのではと推測します。音楽理論とか、理性的な部分の脳はほとんど使っていないはずです。推測すると書きましたが、恐らくこれは真実でしょう。そうでなければ、なぜこのような音楽が奏でられるのか、説明がつきません。常に大胆に、ギリギリを狙った演奏を重ねてきたからこそ、品格ある音楽脳を手に入れることができ、それをフル活用したからこそ、素晴らしい演奏を残したのだと思われます。皆さん、是非マリアーノのプレイをお聞きください。