仕事柄、音楽に関する最新情報をリサーチするのが日課となっているのですが、今日、ふと目に留まった「CDカセットデッキ「新発売」!」という記事を読んでいる内に、自分の修行時代のカセットテープに関する思い出が蘇ってきました。
カセットテープで演奏を録音
私、鈴木学のサックス(サクソフォン)修行時代、今から約25~30年程前になります。その当時、もちろんICレコーダーは存在しません。MD(懐かしいですねえ・・笑)もありません。自分の音を録音し聞きなおしてチェックするには、カセットテープで録音するのが、実質的に唯一の手段でした。
気軽に扱う事ができる機材として、ラジカセ(懐かしいですね・・笑)を用意し、カセットテープをセット、内臓マイクで録音した後に、巻き戻して(!)自分の演奏を聴きました。当時のラジカセの音質を記憶している方ならば、深く共感いただけると思うのですが、現代のレコーダーと比べたら、もう比較にならないくらい音質が劣悪でしたから、自分の音をラジカセから聞くと、もう泣きたくなるくらいひどい音で聞こえてきます!心が折れそうになるのをぐっとこらえつつ、繰り返し録音して、自分の演奏をチェックしたものです。
名人の演奏をカセットで聞くと・・
そんなある日、当時心酔していた(今もですが・・)日本人ジャズテナーの雄、故宮沢明さんの、カセット録音を聞かせてもらうチャンスがありました。今になって思えば、恐らく誰かがこっそりと隠し録りしたものだったのでしょうね。
幾ら名人の宮沢さんでも、さすがにカセットで聞いたら、それなりの音色になるだろうと予想しつつテープを再生したら、その予想は大きく覆されました。ショボい音質で再生されるはずのラジカセから、いつもの宮沢さんの音が聞こえてきたのです!!当時、宮沢さんのライブには何度も足を運び(毎月名古屋にいらしていました)、生の素晴らしい音色は、しっかりと記憶していたので、尚更、その時のショックは大きかったです。本当に良い音色ならば、どんな機器で再生してもよい音に聞こえることを思い知らされました!
名人の音は再生機器を選ばない!
その後、ラジカセと格闘する日々が続きました。「ラジカセで録音してもよい音に聞こえるような音色を手に入れたい」、その一心で、録音を繰り返し、再生音をチェックしつつリードを調整し、奏法を見直す日々が続きました。その結果手に入れたのが、今の私の音色です。もちろん、偉大なジャズサックスの名手たちには遠く及ばず、未熟な音色でお恥ずかしいのですが、数年前の私の演奏映像をご紹介します(今現在はこの当時よりは、若干マシになっているはずです・・汗)
アナログな音を伝承したい!
(自分の未熟な音色を棚に上げつつ、このようなことを書くのは冷や汗の出る思いですが)、最近の若手奏者の音色を聞くと、過去の偉大なジャズメン達の音色と比べて、全体に薄味になっているように思えます。奥行きが浅いような、深みが無いような、どことなくデジタル的な音色に聞こえてしまいます。そして、これには録音再生機器のデジタル化が大きく影響しているように思えてなりません。デジタル機器は確かにノイズもなく綺麗に整った音を再生しますが、それが絶対的に良い音なのか?と言えば、必ずしもそう断言できないはずだと思うのです。
録音技術そのものがデジタル化し、イヤホンでの聴取を意識した音作りになっているのも大きく影響しているとは思いますが、以前に聞いた名人たちの音色の記憶、そして残された録音物と比較すると、大きな開きがあるように思えて仕方がありません。そのどちらが良いと一概に断言できるもので無いとは思いますが、それでもジャズ独特の毒、色気を含んだ音色が損なわれつつあるとしたら、それは大変に寂しいことだと感じます。
このように感じるのは、私自身がアナログ、デジタルの両方を体験しているから、かもしれません。そして、アナログな音色の良さを体験できた者は、それをデジタル全盛の現代に伝承しなければならないのだと思います。
久々にカセットデッキを引っ張り出して修行してみようかなあ、なんて思いました。しかし、そもそもカセットテープを買いに行かねばなりませんね。まだ売っているのかな?皆さんも是非、カセットテープでの録音練習、お試しください!