前回のブログ【自分の音を見つけよう!①】で、サックス(サクソフォン)等、楽器演奏者は演奏中に、自分の音色を受け入れる必要がある事を指摘しました。にもかかわらず実際には、初心者の時期に自分の音色を受け入れて演奏する事は、かなり困難です。
そうなってしまう原因は主に2つあります。一つは前回解説した、楽器を正しく操作することに固執するあまり、「全く耳が働かず、そもそも音色が聞こえていない」状態です。今回のブログではもう一つ、姿、声同様「好きではないから受け入れたくない」状態について解説します。
理想の音と違う?
レッスン中に、「自分の音って、しっかりと認識できていますか?」と訊ね、様々に確認してみると、ほとんどの人が、実はあやふやにしか認識していない事が分かります。その原因の一つに、「無意識に自分の音を聞くのを避けている」事が挙げられます。
何故そうなってしまうのか、さらに原因を掘り下げようと生徒に質問を重ねると、結局「今の自分の音が好きではない、理想の音と違うから聞きたくない」というのが本音のようなのです。
その為、例え演奏中に自分の音色が耳に入っていても、常に「ダメ出し」ばかりを続けてしまいます。その状態では自分の音をしっかりと認識できませんから、指だけ動かしているような「余所余所しい演奏」となってしまうのです。
理想の音って?
今回のお話の中でキーワードは「理想の音」です。楽器演奏に取り組む上で、将来こんな音色を奏でてみたいと憧れるような「理想の音」、まじめな人にとっては「お手本の音」・・、大なり小なり誰にでもそのイメージはあるでしょう。
ところが、現実にはこの「理想の音」という観念は、演奏者を苦しめる原因となっています。「理想の音が出せない自分はダメだ」、「自分の腕前はまだまだだ」と、自らを責め、卑下する事になりがちです。しかしながら、ここでちょっとだけ考えていただきたいのです。理想の音って何なのでしょう?何か具体的な実体があるのでしょうか?
音、音色というのは、実に抽象的なものです。もちろん目には見えないし、手に触れることもできません。例えば、CD等の音源で耳にした奏者の音色をお手本にと考えても、具体的な形として目の前に置けるものではありません。印象としてその音色が「好き」、「美しい」と感じることはあっても、それはあくまで人間の感覚レベルの話です。言ってみれば、夢の中の世界のストーリーのように、実体があるようで、実はハッキリしていないのが、「音色のイメージ」なのです。
そもそも、頭の中に楽器の音色のイメージを浮かべること自体、楽器初心者には困難です。演奏経験が深まるに従って、徐々に徐々にイメージが具体化されていくのですが、相当な上級者でも完全にリアルな音色をイメージすることは不可能です。あくまでイメージはイメージ、漠然としたものであることに変わりはありません。つまり「理想の音」と言っても、実はかなり漠然としたものなのです。
生音とのギャップ
音色について、具体的にイメージする事が困難である事に加えて、さらに厄介な問題があります。CD等の録音物から聞こえてくる音色、ライブ会場、コンサートホールで聴く音色と、奏者自身の傍で聞く音色のギャップです。
録音音源を作成する際、通常は商品力を高めるために、音を様々に加工して整えます。そのために、生音よりはかなり聴きやすい音になるのが通例です。奏者によっては、生音とレコーディング音が、同じ人間の演奏とは思えないほど、別物になることもあります。
それはコンサートホール等、大空間で聞いた場合も同様です。どんな奏者でも、間近で聞く音と離れた場所で聞く音では、大きく印象が変化します。さらに言えば、ホール自体が楽器の音色を聴きやすく演出してくれる音響設計になっていたり、残響がきれいに響くことで印象がよくなっていたり、何れにせよ、近くで生の音を聞くのとは、大きく印象が異なります。
もう、お分かりいただけたと思いますが、録音音源やコンサートホールで聞いた音色を「理想の音」としてしまうと、間違いなく自分の現実の音とのギャップに苦しむことになります。しかし、それはまったくの無茶です。環境が異なるのですから、同じ音になるはずがありません。これを必ず忘れないようにしてください。
自分の音を受け入れよう!
例えば、楽器を手にしていない時に、「理想の音色」について思い浮かべたり、誰かあこがれの奏者の音を分析するように聴く事は、楽器演奏の向上のためには、たいへん有効です。しかしながら、演奏中「理想の音」にこだわるあまり、現実の自分の音を聞かなくなってしまってはいけません。
理想は理想、現実は現実。自らの演奏中はしっかりと自分の音、音色と向き合い、自分の音を受け入れてください!理想の音はあくまで想像の世界の中の物、漠然としたイメージにすぎません。それに対して自分の音は、現実に聞こえている音、そして自らコントロール可能な音なのです。どちらを優先すべきかは、明白でしょう?何より、「演奏を楽しむ」という大きな目的を忘れてはいけません。今の「自分の音」で、思い切り演奏を楽しみましょう!
しっかりと受け入れれば、そのうちに自分の音が可愛く思えてくるものですよ!(経験談)