アーチー・シェップ(Ts)の表現について考える

ジャズテナーサックスサクソフォン)奏者として、今も活動を続けるアーチー・シェップ。この人の演奏を聴くと、いつも表現について考えさせられます。シェップは、ジャズファンの間では一般的に、フリージャズのミュージシャンとして位置づけられることが多いのですが、実際は大半の演奏は調性音楽(音程がしっかりとある音楽)の範疇に入るものです。もちろん、リズムだってきちんと拍子があります。では、何が「フリー」なのでしょうか?

グロテスクな表現

例えば、シェップの演奏を音符として、楽譜に書き付けてしまえば、結構普通の譜面になると思います。しかし、その譜面をシェップ以外の誰かが演奏しても、決してシェップのようには聞こえないでしょう。つまり、シェップの演奏の本質は譜面には書き表せない部分、表現法にあるのです。

この演奏を聞くと、シェップが発した初めの一音に、皆ギョッとすることでしょう。「何じゃ、こりゃあ!」と驚くはずです。普通の音を普通には吹かない、その結果異様な音表現になる、だから「フリー」(アバンギャルド、前衛的)演奏に聞こえるのですね。

音符に書けない表現

最近、生徒さんに「楽譜にスラー、アクセントと『書いてあるから』その通りに演奏するのではなく、自ら進んで様々な表現をしましょう」という話をしています。そもそも「音符に何も指示が無ければ、何も表現しないのか?」と考えれば、全ての音に対して、奏者自身が積極的に表現していくのは、当然のことと言えるはずです。

フリージャズテナーサックスの雄、アーチー・シェップ

楽器演奏上、実行可能な表現を、譜面に記譜することが可能なものに限定すると、演奏表現イコール、楽器演奏の一般的な慣習に従った、スラー、スタッカート、テヌート等の表現を、どの音に適用するか、という事となります。しかし、私、鈴木学はこの考え方には全く同意できません。

 

だって、カラオケで歌を歌う際、どの音をスタッカートしてとか考えないでしょう?鼻歌のようにメロディーを歌う際、全ての音の「表現」、つまり、スタッカート、テヌート等を事前に決めておかなければ歌えないなんてことはありえないです。歌を歌うことだって、立派な音楽表現ですが、必ずしもスラー云々が基準となる表現法の範疇には収まらないのです。

ここでシェップの演奏に話題を戻しましょう。彼にとっての音楽表現は、西洋音楽の楽譜には記譜不能なものです。どちらかと言えば、伝統的なブルース演奏の表現、叫びとか語りに近いものでしょう。どう考えても音符を表現しようとはしていません!シェップ自身の「歌」を楽器を通じて表現しているのですね。

これは、特にジャズの分野で楽器演奏に取り組む者にとって重要なポイントだと思います。「皆さんが演奏しているのは、音符ですか歌ですか?」、今一度、振り返ってみてください。きっと何らかの発見があるはずですよ!