ジャズテナーサックス(サクソフォン)の歴史上、10人の名人を選べと言われてたら、私、鈴木学は個人的に、ジョー・ヘンダーソンの名前を外すことはないと思います。60年代初頭、新主流派と呼ばれた時代の華やかな演奏活動、80年代ジャズ・リバイバル期の颯爽たる復活等、ジャズファンの記憶に中に深く刻まれた存在であることは、間違いのない事実でしょう。
「軽やかさ」がジャズテナー演奏のポイント!」
豪快さ、太くたくましく豊かな音量、セクシーな低音、かすれた音色・・。ジャズテナーサックス演奏に対する、一般的なイメージを言葉で並べると、こんな感じになるでしょうか?リスナー、演奏愛好家の皆さんの中では、特に初めの2つ、豪快さ、太くたくましく豊かな音量を強く思い浮かべる人が多いことと察します。
しかし実は、ジャズテナーに取り組む上で、この2点のイメージは悲劇的な勘違いにつながりがちです。「豪快さ→雑な演奏」、「太くたくましい豊かな音→音量ばかり大きく聞きづらい音」となってしまう恐れがあるのです。ここで、一般には豪快な演奏をするとされている、ジョーヘンの音を聞いてみましょう。
確かに豪快な印象はあります。しかし、それは音色の印象、例えば良い意味のざらつき、倍音が豊かに響く響きよるもの、そして広い音域を駆け巡る表現上のダイナミックさ、緊迫した演奏表現を生み出すスピリッツによるものです。
何の先入観もなく、素直にジョーヘンの音に耳を傾ければ、最も印象的なのは「軽やかさ」でしょう。細かい音符を分散和音(アルペジオ)的に連ね、縦横無尽に(?)吹きまくっています。楽器の大きさを全く感じさせない、軽やかな吹きっぷりです。
ジャズである前に音楽!
恐らく、ジョーヘンはクラシック音楽系のトレーニングを十分に積んだのではないでしょうか?実に運指に無駄がなく、どのように音を並べても、音量、音程、リズム的に何の乱れも感じさせないプレイを聞けば、そのようにしか思えません。
「ジャズサックスが上手くなるには、どうしたらよいですか?」と尋ねられることは多いのですが、実は一番有効なのはクラシックサックスのエチュード(練習曲)を丹念に練習する事だったりします。ジャズだからといえども、特別な秘訣は何らありません。
そういった基礎的なトレーニングで演奏力、そして音楽性を高めることが、ジャズ演奏の最大の秘訣なんです。「ジャズである前に音楽」ですから、これこそが真実なのです。
我々日本人は、ジャズに取り組むと、必要以上にアメリカ、そして黒人音楽を意識しがちです。その結果、黒人奏者っぽいプレイ、いかにもジャズっぽいプレイを求めがちです。しかし肝心の本場のプレイヤーたちは、必ずしもそうは思っていないでしょうね。より良い音楽を生み出したいというのを、第一に考えているはずです。
黒人っぽさ、ジャズテナーらしさよりも、音楽として端正なプレイを求めましょう!太くたくましく豪快な演奏よりも、軽やかで自由な演奏を求めましょう!その先に、ジョーヘンのような演奏があるかもしれませんよ!(かく言う私自身、とてもジョーヘンのようには吹けませんが・・汗)