音色について考える

撮影、越野龍彦氏
撮影、越野龍彦氏

先週末、最近では珍しく、二日連続でステージに上がりました。昼間に教室でレッスンしてからのステージが続いたので、若干身体に疲れが残りましたが、その分大きな発見がありました。


これまで25年以上のジャズ演奏、サックスサクソフォン)プレイヤー生活の中で、後につながる大きな発見は、たいていステージの上で得てきました。今回の気づきも恐らく今まで同様に、後々の財産になるでしょう。

そして、土曜日のステージで、写真家の越野龍彦さんに、素晴らしい写真を撮影していただいたので、その一部も併せてご紹介したいと思います

音色って何だろう?

撮影、越野龍彦氏
撮影、越野龍彦氏

先週末、2日間の演奏は、それぞれ異なる会場、異なるメンバーだったのですが、どちらも私、鈴木学にとって、大切に演奏したい状況でした。もちろん普段、手を抜いているなんてことは一切ありません。それでも、自分のキャパの100%以上を求める演奏を、二日続けることはまずありません。


その結果、恐らく自分の耳、感覚が敏感になったのでしょうか?自分のテナーサックスの音色が、数年前と比べてかなり変化してきたように思えたのです。


もちろん常日頃から、楽器を奏でる際には、常に音色に対して大きく意識を向けています。あらゆる瞬間に、より良い音色、今までとは異なる音色を求める意識を忘れることはありません。それでも、少なくともこの数年間、特に音色を鍛える練習(例えば、ロングトーン練習)は、一切行っていませんでした。でも気づいたら、音色は変化していた・・。「一体音色って何なんだ?」と、演奏後しばらく考え込んでしまいました。

表面上の美しさだけではない

撮影、越野龍彦氏
撮影、越野龍彦氏

もちろんこれまでにも、サックスサクソフォン)、フルートクラリネットの音色に関して、私は恐らく人一倍、研究を重ねてきました。より良い音色とは?楽器がしっかりと響いた音を出すには?リスナーにとって心地よい音とは?・・等々、様々に分析を重ねた上で、どのように身体をコントロールするのが良いのか、楽器の演奏法奏法についてもさんざん試行錯誤を重ねました。


その結果、手前味噌ながらマアマアの音色を出せるようにはなっていると、自己評価してきたのですが、たまたま録音していた今回の音を確認のためにしっかりと聴きなおしてみたところ、やはり今までの自分の音と比べると、何かが大きく変わったように思えます。

それが何々なのか?色々と考えている中で、最近の若手サックスプレイヤーの音色に対して感じる違和感を思い出しました。特に録音されると、皆同じような音に聞こえがちなのです(もちろん、そうではない奏者もいるでしょうが・・)。もちろん「音」としては整った奇麗な音だけど、果たして「音色」と言えるのか?ならば、彼、彼女らと私の音の違いは何なのか?

人となりが表れてこそ「音色」

撮影、越野龍彦氏
撮影、越野龍彦氏

そこまで考えたところで、ハッと気づきました。私の音に、自分の演奏哲学、音楽性、ひょっとしたら私の人柄(?)が表出してきたのではないか?と・・。そうか!音色というのは、こういう要素が表現されてこその「音色」なのだと、大いに納得できました!同時に、私はついに「音色」を手に入れたのだと、しばし感動しました。


長年の間、人とは異なる「自分の音色」、「自ら納得できる良い音」を追い求めたこと、生徒相手のレッスン中に「演奏とは何か?」と考え続けたことが、今回の発見につながったのだと思います。

演奏者の人となりが表現されてこそ、「音色」と言えるのです。ただ整って聴き心地がよいだけでは、「きれいな音」にすぎないのですね。長期間の練習を重ねれば、誰でも「きれいな音」は出せます。しかし「味わいのある音色」を奏でられるかどうかは、必ずしも練習時間の長さに因りません。実際は「とにかく何かを表現したいという想い」の強さこそが、最大のポイントでしょう。皆さん、是非目標にしてくださいね!