ジャズ、ロック、クラシック等、音楽のライブ、コンサートを企画する際の選曲、構成について、前回のブログで、よくありがちな問題点、「親しみやすい曲=皆が知っている有名曲」と言う勘違い、「聞き手のノスタルジー」に依存することの問題点、この二つについて指摘しました。
今回はもう少し具体的に、例えば、私、鈴木学ならばどのように考えて選曲、構成するのか、ご紹介しようと思います。当然ながら大前提として、ライブ、コンサートの聴衆、観客に満足してもらえるような内容とすることを目標に考えてみましょう。
自分がよく知っている曲=有名曲とは限らない
当たり前のことですが、演奏者自身が良く知っている曲、若いころによく聞いた曲だからといって、それが同様に聴衆にとってなじみが深い曲とは限りません。前回のブログで指摘した通り、本番当日の観客の年齢層によって、思い出の曲、ノスタルジーを抱く曲は大きく異なります。
そして何より勘違いしていけないのは、大抵の場合、ライブ・コンサートの出演者は音楽の専門家、もしくは愛好家として、一般の人々よりは、自ら演奏する音楽について詳しいはずです。例えばジャズをほぼ専門に演奏している人間が、一般の聴衆よりもジャズで演奏するレパートリーについて詳しいのは当然です。
演奏者にとって「皆が知っている有名曲」と観客にとっての「有名曲」は必ずしも一致しません。これを頭に入れておかないと、聴衆、観客との間にギャップが生じてしまいます。だからこそ普段から、例えば誰かのコンサートに観客として赴いた際にでも、観客がどんな楽曲を好んで聴いているのか、よくよく観察する習慣を持つと良いでしょう。
パッと聞き派手な曲とジワっと魅力が伝わる曲
古くからずっとスタンダードとして愛されている楽曲にも、様々な傾向の曲があります。例えば聴衆へのアピールと言う点から考えると、「初めて聞いた瞬間から『これは良い曲だ!』と伝わりやすい派手でキャッチーな楽曲」、そして「初めて聞いた際はそれほどでもなかったけど、何回も聞くうちにジワジワと曲の良さが伝わる奥深い魅力を持つ楽曲」と、大きく二つのタイプに分かれます。
一般的な聴衆が好みやすい、もしくはコンサートで受けやすいのは、もちろん前者の楽曲「派手な名曲」です。それに対して演奏者(特に経験の長い演奏者)は、後者「地味な名曲」を好む傾向があります。まあこれは考えれば当然で、演奏者は同じ楽曲を何度も繰り返し演奏しますから、地味だけど飽きがこない楽曲を好みやすいのです。
ライブ、コンサートの選曲をする際には、この点を忘れてはいけません。必ずしも演奏者と観客の好みは一致しないのです。名曲には「派手な名曲」と「地味な名曲」があるという点を考慮しつつ、選曲する必要があります。
鈴木の選曲法を公開します!
さて、それではここで私、鈴木学がライブ・コンサートの選曲をする際の考え方をご紹介します。実際には、その日のコンサートの趣旨、客層その他、つまり、どのような観客に対して、どのように聞いていただくか(コンサートかBGMか?等)で選曲は大きく変化しますので、今回ご紹介するのはあくまで一例という事で、参考にしてください。
まずは自分の演奏レパートリーの中から、当日演奏したい曲を以下の3段階のレベルに分けてピックアップします。
- 聴衆に耳馴染みがある有名曲、もしくは一度聞いただけで分かりやすいキャッチーでポップな楽曲(聴きやすい曲)
- 「通」ならば知っている可能性の高い有名曲、もしくは地味だけど味わい深い名曲(聴きごたえのある曲)
- 演奏者にとって挑戦となる、難易度の高い楽曲、もしくは聴衆にとっても聴きごたえのある大曲(聴衆に集中力を求める曲)
楽曲をピックアップした後、具体的な曲順、演奏順を検討します。テンポ、調(キー)、曲想に偏りが無いよう、プログラムの中で似たような楽曲が連続するのを避けて構成します。演奏会全体にストーリーができるようにイメージし、足りない部分があれば別の曲を加えたりします。
ライブ・コンサートを料理のコースに見立ててイメージすると分かりやすくなります。いくら美味しい料理でも、こってりした味ばかり続いたり、その反対が続いたりしたら、食べる方は味に飽きてしまいます。前菜、野菜料理、魚料理、口直し、肉料理、デザート、といったように味のバランスを考えて提供されるからこそ、各料理の味が生きてきます。演奏会の選曲も全く同様です。
どのように楽曲に向き合うか?
「1」群の楽曲は、観客へのサービス的な意味で選びます。前回のブログで指摘したように、観客は自らのノスタルジーが満たされることで大きな満足を得ます。観客に対するサービスが必須となるような演奏会では、こういった楽曲を多めに取り上げると良いです(ただし私の場合、音楽家の矜持として、これらの楽曲を演奏する際には、誰も聞いたことが無いような、自分ならではの表現、解釈を盛り込むように心掛けますが...)。
「2」群の楽曲こそ、演奏者の腕の見せ所となります。こういった楽曲は、演奏の内容次第で、観客が「良い曲だなあ」と感激するか、印象の薄いBGM的存在になるかが分かれます。正直に言えば、「1」群の曲は演奏が未熟でも、楽曲自体の魅力が大きいので、観客には好印象となることが多いです。そもそもノスタルジーを呼び覚ますきっかけとなることが主な目的なのですから、「演奏」よりも「曲」が生音として提供されることが重要なのです。
それに対して「2」群の曲は、演奏されている瞬間に観客にどのような印象となって伝わるかで、評価が変わります。だからこそ、私はこういった楽曲の演奏には、より強い集中力を持って臨みます。終演後に「良い曲だった」と観客から聞けたら、「よし!」と喜びます(笑)。そういった意味で、例えば演奏者のオリジナル曲についても、このグループに含めてもよろしいかと思います。自作曲の魅力を大いにアピールしましょう!
「2」群の楽曲をうまく演奏者が表現し、観客に楽曲の魅力を伝えることができると、観客にとっては「聴きごたえのある演奏会だった」ということになります。「1」群の曲ばかり聞くよりも、明確に満足感が高くなるものです。
「3」群の楽曲の演奏の際には、まずは演奏者自身が思い切り演奏を楽しむことです!個人的には、この場合目の前の聴衆の存在を忘れてしまっても良いと思います。演奏者として自らの技術、音楽力を駆使し、音楽にのめり込むように演奏する...。その姿は観客にとっても大いに見ものとなります。例え比較的難解な内容であっても、演奏者が熱気も帯びて演奏すれば、必ず観客にそれは伝わり、何らかの感動となって残ります。是非、思い切って熱く演奏してください!
演奏者自身が「好きな」楽曲を!
...と、ここまでいろいろと書いてきましたが、大前提を忘れていました。ライブ、コンサートの選曲時には、まず演奏者自身が「好き」と心から思える楽曲、もしくは「好き」になりそうな楽曲を選んでください。時には「好き」でないけど観客から求められるから...、なんて楽曲を演奏することもあるかもしれません。まあ、それは仕方がないです。観客あっての演奏会ですから...。しかしだからこそ、自ら選択できる部分については、好きな楽曲を選ぶのです!
ただ一つ注意していただきたいのは、演奏者自身、リスナーとして「好き」な楽曲が、演奏して「楽しい」楽曲とイコールになるとは限りません。そこを勘違いしていると幸せな結果に結びつきません。そこはしっかりと区別して、極力、演奏するのが「好き」な曲を選ぶと良いと思います。
演奏者、もしくは企画者自身がある程度の満足感を得られなければ、観客にとっても有意義なコンサートにはなりにくいでしょう。せっかくのライブ・コンサートのチャンス!満足できる成果を得るためにも、「まずは自分たちが大いに楽しめる選曲、構成を!」。是非、心掛けてください!