前回までのブログ【「~でなければならないって」本当?①】、【「~でなければならないって」本当②】で、ここ日本の音楽教育の中で一般的に考えられている、演奏中の「~でなければならない」が本質的に無用の制約である事を指摘しました。今回は、サックス(サクソフォン)等、管楽器演奏の際、身体的に「~でなければならない」と信じられているいくつかのポイントについて検証します。
お腹で踏ん張らなければならない?
皆さんの中の、中高吹奏楽部のイメージはどんなものでしょう?きっとかなりの数の人は、文化部なのに体操服を着て、ランニングしていたり腹筋運動している姿を、思い浮かべるのではないでしょうか?実際、鈴木サキソフォンスクールの入校時、体験レッスンでも「サックスを吹くには体力、腹筋が必要ですよね?」と尋ねられることが多々あります。
つまり大勢の人がサックスその他、管楽器を演奏する際には腹式呼吸なのだから「お腹で踏ん張って息を支えなければならない」と信じ込んでいます。結論から言えば、これは全くの誤解です。息が入るのは胸の中、肺に入ります。ですから、管楽器演奏時には胸の周囲、つまり肺が柔軟に動く状態になることが非常に大切です。その結果、肺の中により多くの空気を取り込むことが可能となり、その状態を保つことが管楽器を豊かにならすための、確かな土台となります。
それに対して、一般に信じられている言葉通り、下腹部に力を込めて踏ん張ってしまうと、まず全身がプルプルと小刻みに震えます(腹筋が足りないから震えるのだと誤解する人がいますが、絶対にそんなことはありません)。そして胴体全体、そして首、のどの周辺まで筋肉が硬直してしまいます。さて、この状態で肺が十分に広がってくれるでしょうか?
ハッキリと断言しましょう!「お腹で踏ん張って息を支えなければならない」という考えは明確な間違いです!むしろ「下腹部で踏ん張るってはいけない」と考えた方が、管楽器演奏上は効果的なくらいです!これは自分の演奏経験、そしてこれまでの生徒様への指導経験から、明確な事実と確信しています。
私、鈴木学自身、中高吹奏楽部でチューバを吹いていた時から数えると10年以上、「お腹で踏ん張って息を支えなければならない」と信じて練習を続けていました。しかしある時気づいてしまったのです。「十年も同じことを続けているのに、何で上達しないのか?何故、音色その他が思うように改善しないのか?」
その後、お腹の力を抜く前提で、様々に奏法改革をしたところ、それまでに感じていた多くの疑問点が一気に解消しました。そして、一気にプロ仕様の音色を獲得し、今に至ります。皆さん、是非、この話を参考に考えを切り替えてください!お腹の力を抜いてください!絶対に後悔はさせませんよ!
口の中、のどを広げなければならない?
日本の管楽器指導の世界では、いまだに「口の中、のどを大きく広げなさい」と伝える指導者は多いようです。残念ながら、これもかなり怪しげな考え方と言わざるをえません。
「口の中、喉を大きく・・」と指導する人はそのメリットとして「口腔内の共鳴で音色の響きが良くなる」と考えているようです。もし仮にそれを真実として受け入れたとしましょう。それでは、その場合のデメリットを列挙すると・・
- 舌先がリードから遠くなり、タンギングが困難になる
- 口腔内のスペースを広げることで、ピッチの調整が困難になる
- アンブッシュアに負担がかかり、口が疲れやすくなる
- 喉、首に力みが生じて、音色が濁りやすくなる
恐らくこの記事をご覧になっている人の中には、思い当たる節があるのではないでしょうか?もしも、これらの演奏上の障害が同時に発生していたら、その原因は「口の中、喉を大きく広げなければならない」という誤解がその原因です。
これだけのデメリットが生じる可能性を受け入れてまで、「口の中、喉を大きく」という考えに固執しますか?いや、そんな必要はないでしょう。むしろ「口の中をコンパクトに、喉は鼻声で軽く高い声を歌うように」と奏法を切り替えれば、上記のデメリットが生じる可能性はグッと下がります。
「口、喉をコンパクトに」しても、音色の響きが貧弱になることはありません。「口、喉を大きく」と信じている人は、口腔内、喉を響かせることが大切と仰いますが、私ならば音色の響きを改善するため重要なのは、肺の中にサックスの音を反響させることだと考えます。だって、口、喉よりも肺の方が体積が大きいのですよ!同じ響かせるならばより大きい部分を響かせた方が、音色への良い影響があるのは明白なことです!
実際に、私が演奏中の肺の中を聴診器で聴くと、サックスの音色が聞こえるそうです。しっかりと肺の中で音色が響いているのですね。肺の中で共鳴した音が、コンパクトな喉、口腔内を通じてサックス本体に反響していく・・、良い音色が得られそうだと思いませんか?それに対して「口、喉を大きく」しようとしている人は、十中八九、喉、首が力んでいますから、肺の中にまで音の響きが伝わりません。口腔内、喉を響かせるために、肺の響きを損なってしまっているのです。
サックス(サクソフォン)等、管楽器を演奏する上で、一般的に信じられている、「お腹で踏ん張って息を支えなければならない」、「口の中、のどを広げなければならない?」という二つの「~でなければならない」は明確な間違いです。是非、考えを切り替えて、お試しください。必ず、幸せな成果が得られるはずですよ!ここまでのブログ【「~でなければならないって」本当?①】、【「~でなければならないって」本当②】と併せて、是非活用くださいませ!