一カ月ほど前から、DAW(デジタル・オーディオ・ワークステーション)に取り組み始めました。所謂「打ち込み」なのですが、このところずっと自作曲を作り続けている中、デモ音源の必要性を感じたのと、将来的に生徒用の教材作成につなげたいと考え、50歳目前にして、新たな挑戦を思い立った次第です。
音楽力向上のトレーニングに!
何事も、新たに取り組むことで想定外の成果が得られるものです。今回、DAWに挑戦するにあたって、「新たな作業を覚えることで脳内が活性化するかな?」なんて程度に想像していたのですが、いざ始めてみると実に多くの効果が実感できました。
私、鈴木学はサックス(サクソフォン)、ジャズフルート奏者として活動してきたわけで、その他の楽器、例えばピアノについても、ほんの少々は弾きますが、専門の奏者のようにはとても扱えません。それでも、いざ打ち込みで音源を作成しようということになると、具体的な和音の並べ方、和音を奏でる音域等、ピアニストの立場になって考える必要があります。
それはもちろん、ベース、ドラムといった楽器の場合も同様な訳で、デモ演奏の音源を作成するために、改めて自分の専門の楽器以外の楽器の勉強をする必要が出てきます。少なくとも、バンド全体のサウンドを構築するために、各楽器の具体的な音をイメージしなければ音源にできない・・。これが今の私にとって最高のトレーニングになっているのです。
これまでも、作編曲はずっと続けてきましたから、もちろん専門外の楽器の奏者にも譜面は書いています。それでも特に、所謂リズムセクションの楽器には、コードネーム主体の楽譜を渡して、具体的な演奏はお任せ(大半の演奏の現場はこんな感じです)でしたから、その部分を自分で考えるのが実に面白いのです。
人間の演奏ならではの魅力
そして今更ながら、人間ならではの演奏の魅力を再確認できています。現代の打ち込みの世界では「ループ音源」という、短い音源を他から取り込んで、打ち込み音に足したり、組み合わせたりする手法が主流になっているようです。
ループ音源の世界では、有名な奏者が自らの演奏を録音して作成した音源も配信されています。ジャズや、ボサノバの場合、こういった音源を使用することで、とたんに「それっぽさ」が増します。これは実に興味深い事実でして、DAWの世界ではコンピューターによる音源と、人間の演奏が別物という認識がされているという事を意味します。打ち込み音と奏者の演奏、それぞれ別物、互いに取って代わることはできないのだから、それぞれの良さを活かして音源を制作する、という事なのですね。
音源を聞き比べる!
今回たまたま同一の楽曲を、完全な打ち込みで試作した音源と、私自身の手によるフルート、シェイカー、サンバホイッスル、ループ音源のパーカッションを加えた音源ができましたので、比較用の映像を作成してみました。曲は最新の自作曲「ティンカーベル」です。お聴きください!
いかがでしょうか?生音を加えた以外にも様々に手を加えてはいるのですが、歴然とした違いが感じられるはずです。前半の打ち込み音のみの音源は「ゲーム音楽」っぽい感じがしますが、生音、ループ音を加えた音源は随分と本物のバンドっぽくなっていますよね?
他の楽器音を消して、自分の吹き込んだ演奏のみを聞くと、我ながらあきれてしまうほど「揺れ揺れ」の演奏になっています。ちなみにシェイカー音も同様です。しかし、他の楽器の音を一緒に鳴らすと、全く自然に聞こえます。人間が演奏した音を全て消して、打ち込み音のみを聞くと完全な「カラオケ」状態になってしまうのですから、「人間の演奏の最大の長所は『人間的揺らぎ』にあり」と断言してしまっても良いのではと思います。
打ち込み音源作成のなかで、「ヒューマナイズ機能」といって、わざと人間的なリズムのずれ、揺らぎを加える機能があります。実は、前半の打ち込み音源にはこれを強めに掛けたのですが、かえって機械的な不規則なずれが奇妙な感じになってしまいました。これによって分かるのは、「演奏上の心地よい揺らぎはあくまで演奏者の感覚によるもの」ということでしょう。機械的な再現は困難なのですね。
他にもいろいろと発見はあったのですが、長くなってきたので今回はこれくらいにしておこうと思います。「打ち込み」に取り組むことで、人間の演奏の魅力を再確認できたのは、私にとって大きな収穫となりました。皆さん是非、ご参考にしてくださいね!