毎年の春頃になると、鈴木サキソフォンスクールでは年に一度の発表会「スチューデントライブ」の準備に取り掛かります。サックス(サクソフォン)、フルートの生徒さんは3名ずつグループになり、プロのピアノトリオと共演します。その演奏の中で、一人ずつ短いソロを披露することになるので、ちょうど今頃、日々のレッスン室の中では、生徒さんの横で私、鈴木学は生徒さんが演奏するソロを創っています。
生徒さんのソロを創る!
ソロを創る際には、生徒さん一人一人の得意不得意を考慮しつつ、課題として伝えたいポイント、新たなチャレンジとなる要素を盛り込みつつ、しかも聞き映えよくカッコいいソロになるように作成します。更に加えて、できる限り短時間で閃きに頼りながら作成しないと、如何にも事前に準備したソロラインのようになってしまいます。
このような様々な条件の下ソロラインを作成するのは、私にとっても「力試し」になります。毎年、この時期のソロ作成が、自分自身の今の音楽家としての能力を確認する事にもなるのです。そして今年も大きな気付きがありました。
生徒さんが演奏するソロですから、作成時にはできるだけジャズの世界で良く用いられるフレージングを中心に、ソロラインを構成するように心がけます。即興の音楽とはいえ、結構世界中で皆が演奏しがちな、言わば「公用語」のようなフレーズがあります。そういった公用語的なフレージングを覚えることは、もちろん生徒さんにとって有益なことですから、極力それを目指したソロを書くのです。
とある生徒さんのソロを書き終え、我ながら良い感じで、教科書的かつクリエイティブで、生徒さんの演奏レベルちょい上くらいのソロが書けたと達成感を持ちつつ、デモ演奏として私の演奏を録音していだくこととしました。楽器を構え、さあ吹こうとしたところで「あれっ?」、軽い戸惑いを感じました。なんか吹きにくい、演奏し辛い感じがしたのです。
実際に録音を始めてもやはり上手く吹けません。とりあえずその場は何とかデモ演奏を録り終えたのですが、後から、これはいったいどうしたことだ?と考え込んでしまいました。
自分なりのアドリブラインの確立!
その結果気づいたのが、ついに今になって、私のアドリブの中で一般的なフレージングが無くなった。ありきたりなフレーズを演奏しなくなった。つまりほぼ完全に私なりの独自フレージングでソロを構成するようになっているということです。これは私自身にとって実に嬉しい事です。この数年間、私ならではの音楽、ジャズの確立を目指してきました。どんな演奏をする時でも、とにかく「自分でいること」、「ナチュラルな自分の感覚、直観に背かない演奏」を心掛けてきました。
もちろん30年かけてジャズの研究をしてきたのですから、自分の中に一般的なジャズフレージングのストックは大量に貯えられています。だからこそ、生徒さんのソロを考える際には、それがスッと出てくるのです。しかし、自分自身の演奏の中では、何時の間にかそういったフレージングを演奏しなくなっていた。この数年その運指を経験していないから、指が反応しなくなったのです。
以前のブログで指摘しましたが、ジャズ演奏、アドリブ演奏は会話と似ています。言ってみれば、チャーリー・パーカースタイルで演奏するというのは「パーカー語」で話す、ジョン・コルトレーンスタイルは「コルトレーン語」という事になります。他にも数多くの偉大な奏者がそれぞれの言葉で話していた結果、ジャズの世界全体の公用語、「ジャズ語」に相当するようなフレーズが残されてきました。
その中で私なりの自分の言葉「鈴木学語」が確立できてきたというのは本当に嬉しい事です。只、今の時点では鈴木語はジャズの世界の中では、「ど田舎の一方言」に過ぎません。これからさらに精進を重ねて、より広範なジャズの世界に通じる言葉へと高めていかなければなりません。
まだまだ道半ばではありますが、自分なりに一つのステップを上ったことが確認できました。やっぱり音楽、ジャズは面白いです!一生をかけて追及し甲斐がある、素晴らしいものですね。皆様も是非、私と共に、素敵な音楽の道を進んでいきましょう!!