「ジャズな演奏者」ジェフ・ベック

「ジャズな演奏者」、名ロックギタリスト、ジェフ・ベックの独創的のプレイを聴き、そんな言葉が思い浮かびました

ふと思い立って何年ぶりかに、名ロックギタリスト、ジェフ・ベックの演奏を聴き直してみました。 以前から、彼のプレイには特別な何かを感じているので、思い出しては聴き直しているのですが、今現在の耳で聞いても、やはりそのプレイは衝撃的で、しかも今回は強く「ジャズ」を感じました。 今回はジェフベックの演奏を参考にして、ジャズ演奏のあるべき姿を探っていこうと思います。

ジャズって何だ?

今の時代、もはやどんな演奏を「ジャズ」と呼ぶべきか?区分があいまいになってきています。 実際、生徒さん、その他お客様から質問を受けて、最も答えに困るのが「ジャズってどんな音楽なのですか?」という問いです。 一応私、鈴木学の中では「スウィングビートのフレージングをマスターしている奏者が奏でた音楽」をジャズとしてきたのですが、この定義では不十分とも感じていました。

司会者、コメディアンとして有名なタモリ(森田一義氏)は、個性的かつ含蓄の深い名言(迷言も?)を多数遺していますが、その中でも「ジャズな人」と言う言葉が大いに印象に残っています。この言葉の真意について、誰か解説している人はいないかと探したところ、ブログ記事として紹介されているものを見つけました。

「ジャズな人」⇒「ジャズな演奏者」

詳しくはこの記事を読んでいただきたいのですが、「ジャズってどんな音楽ですか?」との問いに対する答えとして、森田氏の言葉を私流に流用すると「現代ではもはやジャズという音楽は存在していない。『ジャズな演奏者』が存在するのみである」という事になります。

ジャズな演奏者、ジェフ・ベック

この「ジャズな演奏者」という概念を言葉で完全に説明するのは困難です。しかし、本来ロックギタリストの範疇ととらえられているジェフ・ベックのプレイを聴くと、私の耳にはジェフが「ジャズな演奏者」であることは間違いがないように感じられます。まずはそのプレイを聴いていただきたいと思います。

ジェフのメロディーの奏で方は実に個性的です。とてつもなくクリエイティブです。そして何よりこれが大切なのですが「全く先の展開が予想できません」!!この映像はけっこう繰り返し見て聴いているのですが、それでも何年かたった後に聴くと、また先の展開が予想できず、大いに驚かされます。

私はこれこそが「ジャズな演奏者」の生み出す音楽の特質だと思うのです。この言葉を完全に定義づけることは困難ですが、「予測困難な音楽を産み出す」という点が、間違いなく「ジャズな演奏者」の持つ特質の一つであるということのみは断言できます。

現代ジャズはどうなってる?

ジャズ演奏の世界では、愛好家(アマチュア)、プロに関係なく、大半の方がジャズの定番フレーズの学習に取り組んでいることと察します。もちろん、ジャズという音楽様式の演奏をマスターするためには、そういったフレーズの研究、それから名演と言われ、伝統的にジャズ学習者が研究対象としてきた音源を「耳コピー」する等、過去のジャズ演奏を知ることは非常に重要です。

ジャズアドリブの内容が、有名ビバップフレーズなのは?

しかし、だからと言って、アドリブ演奏に臨む際に、そういった定番フレーズばかりを並べた演奏を良しとするのは、話が異なると思うのです。しかし実際には、如何にもという、有名ビバップフレーズばかりを並べてソロを構成しようとする人は大勢います。それが「ジャズらしい演奏」と信じているのですね。

定番フレーズばかりの演奏って?

しかしながら、リスナーの立場から言えば、こういったソロ演奏は「退屈な印象」となります。もちろんそれは、共演者にとっても同じことになるでしょう。特にジャズを聴き込んでいるリスナー、共演者になるほど、そうなってしまいます。定番フレーズということは、ジャズファンならば聞きなれているフレーズ、すでに知っているフレーズという事です。つまりそのフレーズが始まれば、フレーズの展開が読めてしまいます。フレーズの最後の音まで予測できてしまうのです。

定番フレーズばかりの演奏はリスナー、共演者にとって退屈

そのような演奏がリスナー、共演者にとって「スリリングな緊張感あふれる演奏」となりえるでしょうか?

 「共演しているとクリエイティブになれる演奏」になるでしょうか?

そして、皆が知っている、もちろん自分もすでに知っているフレーズを、知った通りに演奏しようとする奏者は「ジャズな演奏者」とは言えないはずです。

予測不能な演奏を!

たとえ定番のフレーズであっても、しっかりと自分のものとした「演奏者自身の歌」になっていれば、リスナー、共演者にとっては新鮮なフレーズになります。そして、アドリブ演奏の最中に、バンド全体のサウンドや、自身のプレイの流れの中の「歌」になっていれば、退屈な音の羅列にはなりません。もちろん普段から、独自のフレーズを見出すべく、フレーズづくりに取り組み、新鮮な響きを追い求めている演奏者のフレーズは、良い意味でのサプライズになります。

「ジャズな演奏差者」、ジェフベック

当然のことですが、ストックフレーズを用いず、その瞬間の感覚的即興に取り組む演奏者のアドリブラインは、「予測不能な演奏」として、スリルと緊張感を提供します(時として全く退屈な内容になる場合もありますが)。ちなみに、ジェフ・ベックは恐らく、独自のフレーズ、表現の探求に執念を燃やすギタリストなのでしょう。それは、上に紹介した映像からもハッキリとうかがえます。

私は、ジャズはとてもカッコイイ音楽なのだと信じています。即興を中心とした演奏フォームから生まれる、即興中心の音楽は、「スリル」と言う点で他の音楽ジャンルにはない魅力となるはずです。そんなジャズならではの魅力を表現するために「ジャズな演奏者」であることを常に心がけたいものです(もちろん自戒の意味で)。皆さん、共に精進しましょうね!