小粋にスタンダードを歌い上げるゲッツ
その映像がこちらになります。どちらかと言えば意外に感じるメンバーとの共演になりますが、まずは音を聞いていただくのがよろしいかと思います。
ピアノのMary Lou Williams、そして恐らく、彼女が普段ともに演奏しているメンバーだと思うのですが、聴いてみてどんな印象が残りましたか?Mary Lou Williamsは、どちらかと言えば、スウィング時代の演奏スタイルを引き継いだピアニストなので、ピアノトリオ全体が少々懐かしい雰囲気の演奏に聞こえませんか?そうなのです。ピアノトリオ全体がスウィングスタイル寄りの演奏をしているのですね。
「天才」ゲッツが蘇っていた?
そして、少々衝撃的だったのは、このピアノトリオと共に演奏しているゲッツの演奏が、非常に素晴らしかったという点です。私は、ゲッツの全盛期はキャリア初期、1950年前後の頃、スタンダードの小唄を素材に「魔性」レベルの美しいフレーズを奏でていた頃だと考えていました。そのプレイはまさに「天才的」でした。その当時の名演をご紹介します。
時代に合わせた素材を取り上げ続けたゲッツ!
キャリア後期のゲッツは、コンテンポラリーな素材に取り組むなど、非常に前向きな姿勢でジャズ演奏に取り組んでいつつも、フレージングの閃き等、キャリア初期の輝きは失っていたと判断していたのです。しかしそれは大きな誤りでした。この映像のゲッツは、完全に「魔性」のプレイを繰り広げていた頃の天才、そのものです。ちなみにこの当時、ゲッツが主にどのような雰囲気のプレイをしていたのか、映像を紹介します。
もちろん、この演奏自体、この時期のゲッツの演奏の中で特に秀逸なものを選んで紹介していることもあり、素晴らしい名演であることに間違いはありません。独特の音色、そして歌心等、ゲッツならではの魅力も多々含まれています。それでも、冒頭に紹介した演奏と比べると、特にフレージングの意外性や切れ味の点から比較すると、違いは鮮明になるかと思います。
どのような演奏を求めるか?
ひょっとしたら、何時でもその気になれば、ゲッツはキャリア初期のようなプレイができたのかもしれません?私以外にも、ゲッツを評して、キャリア初期を絶頂期と見なす論者は大勢いますが、実はゲッツは「衰えた」のではなく、「あえて演奏スタイルを変えていた」のだという事が、今回の映像で明らかになったのです。
その真意はどこにあったのか?商業的な理由で、あえて「売れ線」を狙おうとしたのか?ずっと同じようなスタンダードを同じようなスタイルで演奏することに飽きていたのか?今となっては本人に確認することが不可能なので、もちろん本当の意図はうかがい知れません。
モダンジャズの開祖、レスター・ヤングは「なぜ、以前のようなプレイをしなくなったのか?」という質問に対して、「人間は齢と共に変化する。昨日までの自分と今の自分は違う。音楽も同じようにプレイはできない」と答えたそうです。きっと、スタン・ゲッツも、レスターのスピリッツと同様な思いがあったのではないでしょうか?
常に自分にとって新しいプレイを見つけたい。同じような演奏を繰り返したくない。そういった思いから、時代に即した楽曲に挑み続け、常に時代の最先端を表現できるサイドメンとの共演を願ったゲッツ。これもまた、一つの「ジャズ・スピリッツ」だ思うのです。
今日見つけた映像から、今まで知らずにいたスタン・ゲッツのスピリッツをうかがい知ることができました。ジャズを聴き続けて35年、ステージに上がり続けること30年。いまだにジャズについて知らないことがあるのだなあと感嘆しました。だからこそ、ジャズ、音楽と共に生きていくのは面白いのだと再確認しました。日々勉強!まだまだ頑張ろう!